一人ひとりを大切にすることで社員の幸福度は上げられる!デンマーク式「幸せな職場」とは?

「優秀な若手や中堅社員の離職が止まらない」「社員のエンゲージメント調査の結果を改善できない」という悩みを抱えた企業は少なくありません。今回は、世界幸福度ランキング第2位である北欧デンマーク研究の第一人者であり、「幸せな職場づくり(happiness at work)」をライフワークにされている犬尾陽子さんにお話を伺いました。「社員の幸福度」をテーマに語っていただきながら、エンゲージメント向上のヒントを探ります。

 

講演者

■ゲストスピーカー
犬尾 陽子 氏
慶應大学大学院SDM 研究員
Happiness Catalyst 創設者/チーフハピネスオフィサー(デンマークWoohoo Academy 認定Chief Happiness Officer)
自身と社会のより良いハピネスを創造する人を育てるエグゼクティブコーチ&人材育成コンサルタント。7回の転職、育休中13種の資格取得、世界30か国超の訪問歴、子どもから経営者まで幅広い人材育成経験を持つ。北欧デンマークに学び、日本流の幸せな生き方・働き方・考え方・学び方を組織と個人に展開する。

■モデレーター
畑 俊彰
株式会社インヴィニオクロス 代表取締役 兼 株式会社インヴィニオ プロデューサー
2004年に株式会社ベンチャー・リンク入社。2009年日本郵便株式会社に入社。同社にて、組織風土改革、異業種他社との共創PJの推進など、多数の組織横断プロジェクトを牽引。2018年株式会社インヴィニオに入社。企業の組織変革・リーダー育成に携わる。2021年3月より現職。

 

なぜ日本企業のエンゲージメントは低いのか?

畑俊彰(以下、畑):エンゲージメントスコアによって、人々が会社や仕事にどれくらい情熱を持ってコミットできているか見える化されました。世界の中でも、日本企業のエンゲージメントは低いと耳にしますが、実際、どのような調査結果が出ているのでしょうか?

犬尾陽子氏(以下、犬尾):2017年にギャラップ社が発表したデータをご紹介しましょう。調査対象国の139カ国中、日本のエンゲージメントは132位と最低ランクです。「非常に意欲的」と回答した人は、世界平均である15%に対し、日本では6%しかいませんでした。

畑:2017年というと、コロナ前のデータですね。ポストコロナでは、数値に変化はあったのでしょうか?

犬尾:2020年の同じ調査では「非常に意欲的」と回答した人の割合は、世界平均は20%、日本は5.3%でした。2017年以降、世界平均は上がってますが、日本はむしろ下がっています。

畑:日本では、100人のうち意欲に溢れているのは5〜6人程度ということですから、なかなか衝撃的ですね。なぜこれほどエンゲージメントが低いのでしょうか?

犬尾:働くことに対する意識にヒントがあると考えています。日本は仕事に対して「生活しなければならないから」「採用してもらったから」と、義務的な意識が強いですよね。

一方、私の研究対象であるデンマークでは、仕事は義務ではなく、権利として捉えられています。「自分には適した仕事をする権利がある」という意識なので、義務というよりもっと寛容で、やわらかい雰囲気があるんです。

「働かなければならない」日本は、どちらかというと寛容でない雰囲気がありますよね。エンゲージメントの低さの要因は、この辺りにあるのではないでしょうか。

畑:日本とデンマークでは、仕事に対する考え方が異なるのですね。なぜそのような違いが生まれるのでしょうか?

犬尾:ひとつ理由を挙げるなら、教育ですね。デンマークの子供たちは「自分がやりたいことはなんだろう?」と考えながら大人になります。一方、日本の教育は会社員になることが前提です。子供たちは、おもしろくない授業に耐えながら、一生懸命知識を詰め込んで、大変な仕事でも頑張れますという大人になっていきます。それが自分の興味や関心ではなく、生活のために働く傾向につながるのではないでしょうか。

日本とデンマークの企業、どんなところが違うのか?

畑:企業と社員の関わり方にも違いがありそうですが、いかがでしょうか?

犬尾:大きくわけて3つの点で異なります。まず1つは人間関係です。日本の組織は縦のつながりが強く、上の人間に気を遣います。上司の機嫌や関係性など、本来注力すべきではない部分に神経を使わなければなりません。

2つめは、周囲からのフィードバックの有無です。努力してもなかなか成果が出ない時に、周囲が理解を示したり、モチベーションが下がらないよう働きかけたりしているかという点ですね。

3つめは、社員の目的意識の有無です。自分が本当は何をしたいか把握して、自己高揚感を持って働いているか?日本とデンマークを比較するとこの辺りに違いがあるなと感じます。

畑:日本人は与えられた役割を大切にする傾向にありますよね。

犬尾:デンマークでも役割は大切にするのですが、日本とはマネジメントのスタイルが異なります。日本企業は、報告・連絡・相談をとても重視しますよね。ただし、これはマイクロマネジメントになりうるリスクもはらんでいます。

デンマークでは細かな報連相は求められていません。初めにゴールについて合意が取れたら、上司は期日までの進め方を部下に任せてしまうんです。部下は信頼されていると感じるでしょうし、仕事にやりがいも出やすくなります。

畑:人と人との向き合い方が、根本的に異なりそうですね。

犬尾:そうなんです。日本は寛容さが低い社会ですよね。失敗は許されないのに、期待値は高いですし、社会的制約が強くて、自分の気持ちと違うものを選ばなければなりません。

実のところ、寛容さと幸福度には強い関連性があるんです。毎年発表されている「World Happiness Report ランキング(世界幸福度ランキング)」には、調査項目の1つに「寛容さ」が含まれています。これが、日本は上位10カ国と比べて低いのです。全体の順位もデンマークは常に1〜3位なのに、日本は2015年以降ずっと50位前後、2021年では56位でした。

畑:安心して生きていける先進国の日本で、なぜこれほど低いスコアが出るのでしょうね。会社の業績が上がれば、社員の幸福度は上がりそうでしょうか?

犬尾:その逆で、社員の幸福度が高いと、会社の業績が上がるんです。理由は単純で、幸福な人間のほうがよりクリエイティブになれるからです。会社の業績を上げるには、まずは社員を幸せにしようというのが世界のトレンドです。

エンゲージメントの高い企業と低い企業の違いとは?

畑:日本でも、エンゲージメントが高い企業と低い企業とに二極化していると感じますが、その要因はどこにあるのでしょうか?

犬尾:エンゲージメントが高い企業は、社員が会社から大切にされていると感じています。社員にそう感じてもらうには、全員を同じに扱わないようにしなければなりません。

例えば、男性の育児休業にしても、取りたい社員もいれば、そうでない社員もいます。そこに一律の制度を押し付けるのではなく、一人ひとりの状況に制度を合わせていくことが、本当に社員を大切にすること、働きやすい職場づくりにつながります。

畑:日本の組織は、例外を作りたがらない傾向がありますね。

犬尾:そうですね。一気に大人数を採用していた時代は「個別対応は大変だから、全員同じでいいよね」でよかったのですが、今は個別化が重視される時代です。働く側も自分らしくいたいと思っていますから、一律の対応をされると会社とのギャップを感じて、離職してしまうこともあるのでしょうね。

畑:日本では、みんなと違う対応をされている人がいると「不公平だ」という意見が出ることもありますよね。デンマークでは、そういった不満は出てこないのでしょうか?

犬尾:日本とデンマークでは「何を公平と思うか?」が違うんです。日本では、全員同じが公平とされていますよね。自分と他人を比較して、違うところがあると「損した」「得した」と感じます。

デンマークでは、他人と比較すること自体がナンセンスです。誰かが特別な対応を受けても、自分に影響がなければ問題にしません。他人の状況は自分の幸せと関係がないんです。

畑:日本人は、自分がどう生きたいか、何をやりたいかがはっきりしていないから、他人と自分を比較してしまうのかもしれませんね。

犬尾:そうですね。日本人はどう生きたいかを問われる機会がほとんどありません。デンマークのように「あなたはどうしたいの?」と常に問いかけられる環境であれば、自分のやりたいことはいずれクリアになっていくでしょう。「指示」ではなく「問い」でのコミュニケーションが増えれば、人は自ら考えるようになりますし、企業と個人の関係性も変わっていくと思います。

畑:今の若手を見ていると、自分のやりたいことについてかなり考えているなと感じるのですが、それを会社に聞いてもらえないのは離職を考える理由になるかもしれませんね。

犬尾:彼らは「自分らしく」と言われてきた世代ですから、自分の話を聞いてほしいし、聞いてくれないことに孤独感を感じています。特に、テレワークが普及してからは物理的な距離があって人間関係の構築も難しく、寂しさを理由に離職してしまう若手もいるようですね。

日本の企業が社員のエンゲージメントを上げるには?

畑:リモートワークが普及して以降、会社への帰属意識の低下が危惧されています。社員の帰属意識を高めるためには、どのような対策が必要でしょうか?

犬尾:その会社でなければならない理由を提示する必要があります。まずは組織目的(パーパス)ですね。社員に「自分のやりたいことと、会社が目指していることが一致するから、ここにいるんだ」と思ってもらうのです。待遇などで会社を選んでいる社員は、よりよい条件の会社が現れるとそちらに行ってしまう可能性がありますから。共に働く仲間が魅力的であることも大切ですね。

畑:デンマークの人々も、会社への帰属意識を感じながら働いているのでしょうか?

犬尾:デンマークでは、会社への帰属意識という考え方はほとんどしないと思います。あくまでも個人の目的を達成するために会社に所属するというイメージです。目的を達成したり、そのポジションがなくなったりすれば、他の場所へ行くだけだと考えています。

畑:会社と個人のパーパスが一致する間は一緒に働き続けるけれど、お互いに合わなくなれば離れればいいと考えているんですね。

犬尾:そうですね。その循環を相互に理解しているんだと思います。その上で、企業と社員がお互いに対等な関係を結んでいるんです。

畑:日本でも若手は自分のパーパスを大切にする傾向にありますから、そこに対応できない企業からは離れていってしまうかもしれませんね。とはいえ、なかなかそこまでする余裕のないマネージャー層も多いと思いますが、どうすればよいでしょうか?

犬尾:最近、マネージャー同士の対話会がとても増えているんです。感情的な部分も含めて、聞くだけでなく話す体験をすることが重要です。誰かに話を聞いてもらえると幸せな気持ちになりますし、ここにいていいんだと思えますよね。

畑:そう考えると、マネージャー層だけでなく経営層にも対話の機会は必要かもしれませんね。

犬尾:日本には日本のいいところがあるので、なにかの真似をするのではなく、そこを生かしていけるといいですね。日本人は互いに尊敬し合うことが得意ですから、敬意をもって対話することから一歩を踏み出せば、これから日本企業はさらによくなっていくのではないのでしょうか。

※本記事は、2022年3月16日に開催された株式会社インヴィニオ主催のオンラインセミナー「なぜ、日本企業における社員の幸福度はこんなにも低いのか?社員と企業の関係性の変化を捉える」の内容をもとに再構成しました。

 

弊社「株式会社インヴィニオクロス」は、人や組織が持つ「感情」や「内発的動機」に着目し、多彩なバックグラウンドを持ったコーチ&ファシリテーター陣とともに、人や組織の変革プロセス&組織の拡大に伴い必ず起こる組織の諸問題の解消に伴走しています。クライアント企業は、大企業~成長プロセスにあるスタートアップ企業まで様々です。

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